「勇気ある追跡」VS「トゥルー・グリット」

はじめてオールナイト興行で映画を見たのは、中学3年の冬だったか?場所は今は亡き新宿ロマン劇場。現在の角川シネマ新宿あたりで、ここの最終上映作品はジェームズ・ウッズの「ザ・コップ」という伝説の映画館。なぜかオールナイト特集上映の招待状が送られてきて、ただで見られるんだったらと駆けつけてしまった。作品は大映作品の「でんきくらげ」「しびれくらげ」「遊び」「おさな妻」だったと記憶する。

70年代前半、こうしたオールナイト特集上映が多くの名画座で毎土曜日に催されていたのである。そもそも名画座というものがそれぞれの繁華街にあり、通常のロードショウ作品のオールナイト上映とは差別化した特集を組んでいたのだ。その中のひとつが池袋文芸座。今は新文芸座となって名画座最後の砦のように頑張ってくれている映画館の前身だ。

なぜ、こんな話になるかというと、ジョン・ウェインの「勇気ある追跡」を見たのが、まさに文芸座オールナイトでの西部劇特集上映だったから。高校生の夏休みはオールナイト三昧。「大いなる勇者」もここの西部劇特集。ホラー特集では「溶解人間」「吸血鬼サーカス団」(リン・フレデリック可愛かった!)などなど。

その「勇気ある追跡」を見たときは忘れられない。ラスト、ジョン・ウェイン扮するルースター・コグバーンが馬に乗ったまま、手綱を口にくわえ、ライフルを右手、ピストルを左手に構え4対1の決闘の見せ場で、場内から『待ってました!ジョン・ウェイン!』と声が掛かったのである。そう、任侠映画のオールナイトで高倉健が最後に殴り込みに行く場面になると、『いよ!健さん待ってました!』と声が掛かるのと同じなのだ。

そもそもジョン・ウェインに対しては遅れてきた世代なものだから、この映画のほうが「赤い河」や「黄色いリボン」よりも先に見てしまったことになり、新作公開のリアルタイムは「11人のカウボーイ」から。よってインパクトは「駅馬車」のリンゴ・キッドより、この映画のコグバーンのほうが強かったのだ。

だから“ジョン・ウェインは「赤い河」で、オスカーを取るべきで、この映画で取るべきじゃなかった”という意見には反対で、キャリア後期の当たり役なのだから、オスカーに立派に値すると思っている。ウェインは、その後コグバーン役を「オレゴン魂」で再び演じているのだから気に入っていたのでしょ。

その大好きな「勇気ある追跡」をコーエン兄弟がリメイクすると聞いて、最初は嫌な感じがした。リメイクには反対だった。しかし、出来上がった「トゥルー・グリット」(原題は一緒ですな)は元々ある原作からの映画化であり、物語の視点が全く異なっていて『そういうことか!』と納得した次第である。すなわち、「勇気〜」はまったくのジョン・ウェインのスター映画で、「トゥルー〜」は殺された父の仇を討つために、コグバーンに追跡を依頼する少女(「勇気〜」ではキム・ダービーの役)の物語になっているのである。

この違いは大きく、全く別物の印象となっている。しかし正統的な西部劇という点では一緒で、本当に久し振りの正統派西部劇(もしかして「許されざる者」以来か?)を堪能する。「ノー・カントリー」も西部劇テイストはあったものの、これほど見事に正統派の味わいをコーエン兄弟がくれるとは驚きだった。彼らが考える荒野の風景(西部劇にはこれが重要)をロジャー・ディーキンスキャメラに収め、カーター・バウエルに思い入れたっぷりのスコアを入れてもらったら、出来ました!という感じだ。

お話自体は変わらず、父の敵を追跡する少女、コグバーンとテキサスレンジャー(今回はマット・デイモン、前作はカントリーシンガーのグレン・キャンベルが演じる)の3人旅。コグバーンは片目の飲んだくれの保安官。少女といがみ合いながらも、徐々に心を通わせ、最後の決闘へ向うというシンプルなもので、時代劇で言うなら股旅人情ものなのである。何時の世もこうした究極の人情ものは当たるようで、アメリカではコーエン兄弟最大のヒット(初の1億ドル!)になっているのが嬉しい。

今回のコグバーンはジェフ・ブリッジス。良かった!やはりこれで「トロン」の失敗を取り返していましたね。