トルナトーレはお好き?

ある世代に“お好きな映画は?”と質問すると、「ニューシネマ・パラダイス」という答えが結構返ってくる。そう、いわゆるミニシアター全盛期に『初めての映画体験』をした世代がこの映画を支持しているのだ。その監督がジョゼッペ・トルナトーレ。よってこの監督をやたらと巨匠と持ち上げる傾向にある。いささかそれが不思議でならないのだ。トルナトーレはそんなに凄い監督か?

実は60年〜70年代のフェリーニパゾリーニヴィスコンティ、という名監督の映画をちゃんと見ている世代の映画ファンには、「ニューシネマ〜」は実は不人気だ。イタリア映画がこんなに甘ったるくっていいのか?ネオリアリズモはどこにいったのだ!、という按配である。本当にどう評価してよいか難しい監督なのである。

そんなトルナトーレの新作が「シチリア!シチリア!」。相変わらず自伝的要素が強い作品に仕上がっている。ペッピーノという主人公の少年時代から青年、結婚から親となって子供の成長をも守って老いてゆくまでを、スケール感のある映像で描いていて「ニューシネマ〜」より好感が持てるが、やっていることはさほど変わりはしていない。考えれば「マレーナ」もモニカ・ベルッチという絶対的存在感の女優がいたから違う作品に見えたものの、よく考えれば基本はイタリアのとある街での少年の記憶であって、同じなのである。

この新作で、とっつきにくいのは、イタリア人に向けて作っているのだろうが、イタリアの歴史を分かっている人を前提に物語が進行していく点だろう。年度も地域の説明もなにもなく、おおよそ、ムッソリーニで戦争だから、1940年代か、とかバックにかかる音楽で60年代か、70年代だろうとか、観客側(日本では)が判断しなければいけない。

また主人公がイタリア共産党へ入って選挙に向かうが、その時代の政治的バックボーンは全く分からず、よっぽど興味がないと飽きてしまう(置いてきぼりを食う感じ)。ちょうどアンゲロプロスが「旅芸人の記録」でギリシャの政治的背景を描いていたのに、こちらはちっとも分からなかったのと一緒だ。

それでもイタリア人特有の『家族が一番!』というコンセプトは納得でき、三谷幸喜がちょっと前にTVで発表した「わが家の歴史」の、これはトルナトーレ版だなと思えば楽しむことができるのであった。そう、この監督はこうした自伝的作風から決して抜け出すことのない、イタリア土着的作家としての魅力は認めるところなのであった。

主人公ペッピーナの奥さんになる女優さん、若い頃のソフィア・ローレンをちょっと細身にした感じで魅力的!いかにもイタリアの美人さん。今回が映画初出演ということで、この先に大いに期待が持てるぞ!!