遅ればせながらの「愛のむきだし」

池袋新文芸座の特集上映にて、ようやく「愛のむきだし」を見る。朝から凄まじい観客動員だ。これだったらもっと長期間の通常上映してもいいんじゃないかと思えるほどだ。DVDが発売になり、主演女優の満島ひかりが売れっ子になった、ようするに公開のその後が認知度アップになった作品だろう。

ちょうど昨年の今頃に、ああ公開時にこの作品を見ていないんじゃベストテンも選ぶ権利も無いなぁ、でも4時間の上映時間がネックだなぁ、とうじうじしていたら結局見られずじまいとなってしまった。まぁ監督の園子温の作品は「奇妙なサーカス」と「気球クラブ」だけしか見ていないので、それほど思い入れある監督でもなかったのも事実。

遅ればせながらの見る前の印象は、インディーズ臭の漂うスタイリッシュな映像で、“愛とは?セックスとは?”あたりの話をうろうろするんじゃないかな、それで4時間はないでしょうと思っていた。ちゃんとお話あるのかねぇ、だった。

以前に少しだけ見ていた監督の作品の印象が完全に覆ったと白状せざるをえない見事なストーリーテラーではないか!クリスチャンの親子に襲う人間の『感情の俗物』としての災難の数々というところか?主人公の少年がようやくに自分のマリア様(勃起の対象となる女の子)を見つけるまでの純愛物語。

途中休憩が10分入るが、その前半はめくるめく面白さだ。目が離せないとはこのこと。後半、新興宗教団体からの救出がいささかダレてしまった感があるが、直線的感情の持ち主の人間たちの群像劇の直線であるがゆえの寄り道の展開が面白い。そして結局のところ≪愛とは素直に勃起するなり≫(この回り道は「時計じかけのオレンジ」に似てるなぁ)と大団円を迎える。

勃起する愛に、信仰心が負けてしまう父と盗撮という罪でしか自分のアイデンティティを保てない息子という話で、どうしてアクションがあれほど絡んで面白くなるのか不思議だ!それが原案、脚本、監督の園子温の技ということになるのだろう。

しかし、この映画を支えているのは女優陣ともいえる。もちろん満島が中心となるが、あの安藤サクラの気色悪さはいったいなんなんだ?そして個人的に牧師さんもやはりクラクラきちゃうよなぁ、と思ってしまった渡辺真紀子さん(すいません「名前のない女たち」見ているのですが印象にないです)のイヤらしい魅力には納得。監督の女性の趣味がこの映画のキモですね。

こうした単純に面白いじゃん、という映画をなんか作家主義的に持ち上げるのはスキじゃなく、物語を描く力がある監督をメジャーが放っておくのがダメなんじゃないと思いますね。満島だけメジャーになっていっている感があるので、これからも彼女は追いかけましょう。

でも監督の新作「冷たい熱帯魚」も面白そうだけど…