新作邦画を語ろう

今年も残すところ後1ヶ月を切ったが、全体の印象としては邦画優勢の年だったように思う。早々と発表となった映画賞の一部はやはり「悪人」と「告白」の対決といったところか。そこでもうすぐ公開される話題作、現在公開中の新作邦画について少しだけ…。

様々な時代劇が公開された2010年であったが、トリを飾る形で登場する「最後の忠臣蔵」は見応え十分な『武士の一分と忠義とは』系の物語。吉良邸討ち入りを果たした赤穂浪士の中の生き残った人間が主役(ふたり)。なぜ彼らは生き残らねばならなかったか?大石内蔵助という絶対的上司の命令を守らねばならない侍の時代の、ある意味悲劇だ。

役所さんは、「十三人〜」が動だとしたら、こちらの侍は静である。ひたすら大石の隠し子のお姫様のお守りである。しかしそれがそれが感動と悲劇的結末(表面上)を迎える、その美しさたるや(忠義の心と映画の画面両方)圧巻だ。こうした時代劇をワーナーブラザースジャパンのウィリアム・アイアトンさんが製作したという事実は凄く皮肉にうつる。

監督はTV「北の国から」で有名な杉田成道監督、その物語をきちんと伝える技がある人だと感心する。そして山田洋次監督と藤沢周平時代劇でも撮影を担当した長沼六男キャメラマンで映し出されるお姫様演じる桜庭ななみの美しさは必見である。彼女は「書道ガール」で報知映画賞(だったと思う)で新人賞を取ったようだが、作品はこっちでしょう。

女優を美しく撮るという点については「ノルウェイの森」も同様にチャレンジしているように一瞬見えるが、実はこちらはテカテカに美しい画面に女優がいるだけで、女優自身が美しく撮れているわけではない。そもそもこの映画がそんなにテカテカに綺麗な画面が必要な作品だとうは思えない。

有名な原作を読もうが読むまいが、この話はどうみたってATG映画でしょ。それに70年代という時代がどうしても必要な話でもないですよね。そんなひとりの男の性と生の日常描写をどうして、そんな凄いキャメラアングルで追いかけるのか不思議でならない。

決定的に説得力不足なのは、親友の死の衝撃の部分の描写が全くなくって、その傷の痛みと言われてねぇ。ようするにこの話は名作「俺たちの荒野」のその後なのですね。「ノルウェイ〜」の前半のほんの少しのモノローグで言われる部分がちゃんと映画になっているのが「俺たち〜」です。

よってこの映画が面白いかといえば、面白くなく、つまらないかといえば、そうでもないの困った映画でしたね。もうひとつSEXが重要なファクターであるなら、ちゃんと女優の裸を登場させて、ちゃんとしたファックシーン撮ろうよ。少なくともアン・リーは出来ていましたよトラン・アン・ユン監督!

時代に生きる人間像が描かれているという点で言うなら「信さん」のほうがはるかに上でしょう。ザ・昭和の映画ですね。この時代があったから今がある、です。昭和38年から約10年の九州の炭鉱町に住む人間たちの群像劇を福岡県出身の平山秀幸監督が丹精込めて描いて魅せる。

博多っ子純情」の光石研さん、「青春の門」の大竹しのぶ(要するにデヴュー作)さんと正しいキャスティングも嬉しい。原作者を脚本家はほぼ私と同年代となれば、これはもう涙なくしては見れない。ノスタルジーを否定するならどうぞ、ただここにちゃんとした日本の文化と生活と人間がいたことだけは否定できないでしょ。

まだまだ、「ヤマト」とか「ふたたび」とか「マザーウォーター」とか書かねばと思うのだが…。