これも幕末時代劇「武士の家計簿」

いわゆる同時代の監督ということになると、本当は長谷川和彦というべきなのだろうが、現在も作品を発表し続けているという存在ではないので除外すると、必然的にその監督と言えるのは森田芳光ということになるようだ。

彼のフィルモグラフィーも見てみると、初期のころから見ているなぁ、と我ながら感心してしまう。見逃してしまった作品は「キッチン」「39刑法第三十九条」「黒い家」「私出すわ」の比較的最近の作品というところだ。

初期のころでも「そろばんずく」と「それから」が同じ監督か?と思うときもあるほど、作品ごとにギャップがあったりの人で、個人的にも「海猫」はダメで、「阿修羅のごとく」良く、「椿三十郎」は“なにもそこまで、黒澤作品と一緒にしなくてもいいのでは”と感じてしまったり、逆説的に言えばいつも同じような平均点の映画は撮らない監督なのである。

今回は2度目の時代劇「武士の家計簿」。本年度たくさん作られている時代劇の中で、もしかしたら(「大奥」は論外)これが一番異色の時代劇かもしれない。武士は登場すれどもチャンバラは登場しない。しかしこれも武士の生き方というお話。

龍馬伝」の中の岩崎弥太郎への一種の褒め言葉に『これからの時代、刀より算盤がものをいうぜよ!』という台詞があるがまさに、ここに登場する下級武士一家も刀の腕でなく、算術の腕で幕末から明治維新を生き抜くのである。

武士もサラリーマンである、と教えてくれたのは池波文学であり、藤沢文学だが、実感したのは「たそがれ清兵衛」の映画を見た時からだろう。今回の映画の算用係のお役目は会社で言えば経理部。その一列に並んで算盤を弾く場面は「アパートの鍵貸します」のオフィスを思わせるなぁ。

算用係であるが故に、武士の付き合いで一家の財政破綻を公にはできない。よって倹約となる。その一家の団結ぶりが穏やかに描かれていき、まぁこの監督も還暦を越えていい意味で丸くなったぞ、と嬉しくなってしまった。一家の食事のシーンが良く監督自身の「家族ゲーム」へのオマージュとも見ることもできるが、ここはやはり「オカンの嫁入り」でもそうだが、家族の絆と団欒の象徴と素直に取ろう。

徳川幕府崩壊と、時代は劇的に変わり、成長した息子からみたら父(堺雅人、すごい!)は時代に取り残された武士と一瞬映るが、やがてその息子にも算術が剣に勝っていくことを知ってこの一家の生き延び方を知るという締め方が鮮やかである。

主演の堺以外にも、その父と母に扮する中村雅俊松坂慶子が抜群にいい!お嫁に来る仲間由紀恵映画女優としてのちゃんとしたキャリアはこれでしょ、と断言してしまうほど役者にちゃんと演技をさせキャメラはがっちりとそれを映すのみで邪魔な構図を作っていない。「失楽園」でキャメラぶん回してした監督の作品とは思えないのだ。ここの大人になったということか?

そしてやはり松竹映画である。家族の映画をもっとも得意とした映画会社である証明が、この時代劇でも成されたと言えますよね。