「恋愛戯曲」は舞台劇だったのですねぇ

深田恭子椎名桔平と自分にとって大変魅力的なキャストの映画「恋愛戯曲〜私と恋におちてください。〜」は見ている最中、ず〜っと、この設定のTV局をブロードウェイに、また女流シナリオライターを中年の劇作家に置き換えたら、それってニール・サイモンの世界だよなぁと思っていた。当然この映画の監督が鴻上尚史で、彼は劇作家ということは知っていたので、やはり演劇として置き換えても成立する設定なんだと思っていた。

なんという演劇に対しての無知であろう。映画が終わってプログラムの見本を見させてもらって初めて、これがすでに人気舞台の演目であり、それの映画化ということを知った。自分が思ったことはすべて逆になっているではないか。鴻上監督はすでに舞台のときにニール・サイモン的な(という以上に劇作家なら一度は題材にする書けない作家)世界にトライしたのではあるまいか?

プロットは1作で売れっ子になった女性シナリオライター(深田)が実はもう才能の枯渇で書けなくなっているが、TVスポンサーの意向で指名されたドラマを書かなければならないのに、少しも出来ていない。そこでTV局の製作部長が担当プロデューサー(椎名)を送り込む(なぜ、彼を送り込んだかがラストにわかるのがこの映画の肝)。

彼女は恋愛しないと書けないとして担当Pに“私と恋に落ちて”と迫る。要素としてはスクリューボールコメディだ。この部分の面白さも演劇的テイストと関係は密接だろう。

映画はこのシナリオの世界を映像化。そこは主婦のシナリオライター(深田)と担当P(椎名)の不倫恋愛空間。またその主婦が書いた本の映像化と三重構造というユニークさで、主役のふたりはそれぞれ三役をこなす。深田の主婦の本のなかのゴージャスな役もいいが(主婦役は無理があるが、コメディだからいいのだ)やはりホテルで缶詰となっている書けないライターが圧倒的に魅力的だ。

そしてその三重構造とも二人はちゃんと恋に落ちるが、作品が最終的に面白いのは、もうタイムリミットがあるので編成部、営業部と他の部署が用意した脚本に、椎名扮する担当Pが対抗できる本を彼女にいかに書かせるか、そしてそれがスポンサーのプレゼンに通るかのスリリングな展開によるもの。

編成部のやり手女史に清水美沙、営業部に西村雅彦、制作の部長には井上順というぐっとくるキャスト。西村&井上は三谷幸喜の「ラジオの時間」でもそうだったけど本当に業界人を演じさせるとリアリティあるよねぇ。また監督自身も深くTV業界と関わっているから、こうした制作裏事情の面白い設定が作れるのだと納得。

深田が一番魅力的に映るのは、シナリオの最後を書いているときのスッピンでの表情なのは映画的カタルシスとなる。これはアップという手法がある映画の強みで、舞台空間では表現が無理な部分だろう。この部分がわかっている鴻上監督にはもっと映画を撮ってもらいたいものだ(これが長編では3作目)。

BSのクールな日本を外国人に語ってもらう番組での巧妙な司会業も捨て難いが・・・。