今年の女優賞は誰に?

ベルリン映画祭で最優秀女優賞を受賞したので、本年度の邦画の主演女優賞は寺島しのぶで決まりかと思っていたら、モントリオールで受賞した深津絵里が「悪人」で対抗してきた。でも2年連続で松たか子(オスカーエントリーは「告白」だもんねぇ)の線だってまだあるというぐらいに今年の女優賞レースは混戦の様相だ。

個人的には松さんも寺島さんもいわゆる受賞経験者なので、今回は深津さんへあげてもいいんじゃないかと思いながらも「キャタピラー」を見てしまうと、最近は「ハッピーフライト」のように脇に回ってのいい仕事なんかが多い印象だっただけに“寺島さん、やるときゃやるよねぇ”となってしまう。

戦争で手足、耳を失って帰ってきた夫と暮さなければならない妻という役どころ。要するに人間は手も足も耳も聞こえなくなると後は食って寝て、交わることしか他にすることがなくなってしまうのである。家のなかでは、そうした夫に嫌気を感じながらも村の人々には『軍神』となった夫を世話する良妻として褒め称えられている皮肉。

そのひたすら交わる寺島さんが、いわゆる体当り演技を見せるのであるが、唯一違和感を感じるのが寺島さんの体の線の美しさだ。ようするに戦争中の田舎の奥さんがこんな綺麗なラインしていないでしょ、と物語以外の部分で思ってしまったという不謹慎な感想。ええモノみせてもろうて贅沢な言い草でスイマセン。

監督である若松孝ニの作品とは過去のピンク映画には全然触れていない。最初に観た作品は82年の「水のないプール」内田裕也の改札切符切りのハサミの扱いが見事だったなぁ。90年以降に「われに撃つ用意あり」「エロティックな関係」「寝盗られ宗介」と松竹でメジャー感のある仕事。「われに〜」の新宿ゲリラロケの迫力は、その他多くの新宿ロケとは比べようもないほどの迫力だったよね。

そして前作の「実録連合赤軍あさま山荘への道程」という大作で激動の60年代を総括してみせた。そして今作では監督の考える戦争の悲劇だ。行き残ってしまった兵士、陰茎以外の運動機能が奪われた男を生々しく描くことでその悲劇を提示して見せ、ビックリさせられたのである。シンプルでありながらその深さとパワフルさに驚かされると共に、『さて次回はどんな作品を見せてくれるか』という期待してしまうのであった。