中村義洋監督の技

ここのところ「ジェネラル・ルージュの凱旋」と「ゴールデン・スランバー」というメジャー作品の連発で、もう大きな仕事ばかりになってしまうのかな?と思っていた中村義洋監督がインディーズシーン(ちょっと大げさですな、配給が大手映画会社じゃないというだけ)に戻って来た。

今でも後悔しているのは「ルート225」を見逃していること。その次の「アヒルと鴨のコインロッカー」からはひたすら追い続けている監督だ。「アヒル」の時はインディーズの監督でメジャーの仕事なんかしないのだろうと思っていたら、なんと次は「チーム・バチスタの栄光」という東宝系のビッグ・バジェットだ。これにはビックリすると共に『この監督は見逃せないぞ!』という思いを強くした。

どれだけインディーズ作品で評価されようが、映画監督たるものメジャーなスタジオ相手にして10億以上の興行が成立する仕事をしてナンボだと思っている。中村監督はそのメジャーとインディーズの両方の空間を見事に行き来し、共に作家性を発揮していながらエンタテインメントとしての作品を発表しているところに大いなる好感を覚えるのだ。

チーム・バチスタ〜」の後に「ジャージの二人」。そのインディーズ作品でコンビを組んだ堺雅人と、上記の2本のメジャー作品とその自由自在ぶりは見事である。

その中村監督が次に選んだ仕事がなんとジャンニーズとの映画「ちょんまげぷりん」。錦戸亮という若手俳優をうまく生かせば、あとは中村印の映画を作ってよしという作品で見事なテンポで見せる。このテンポ、メジャーでもインディーズでも一緒のところがイイ!

シングルマザーのともさかりえは幼稚園児を抱えながら働いている。舞台は巣鴨というのがまた良い。ある日街角にたたずむ侍を見るが、当然イベントの俳優かなにかと勘違い。しかしその侍がアパートの敷地内をウロウロ。仕方なく家でご飯を食べさせる。どうやら180年以上前からタイムスリップしてきた本当の侍らしい。ここから物語はこの母子と侍の心の交流を縦軸として、侍がパティシエになって、江戸時代の役なき直参が始めて『お役務め』が出来ると言う展開を用意する。

母子家庭と仕事の両立の苦労や、幼稚園での他の母親との交流など、実に見事な場面展開で飽きさせず、笑わせてくれる。作家性とエンタメの両立はハリウッドで言えば往年のヒッチコックワイルダーを思わせるではないか。また的確な役者の配置で会社の同僚や上司もキチンと描けている。

そしてなんといっても達者な子役の男の子は見事だ。これだけちゃんと演技してくれると子役の持つ『あざとさ』はなく、登場人物の一人となっていく。その子どもと侍の絆をはっきりとした形で描くのがケーキ作りコンテストの場面で、ここがクライマックスと言っても良い。

コメディとして、タイムスリップが起こすカルチャーギャップとなるが、それがやがて現代の日本人が失ったものへと変わり最後はホロリとさせる『技』を見せてくれるのである。

下半期の見逃せない5本のうちの1本になったぞ!