娯楽映画監督 石井輝男

8月のシネマヴェーラ石井輝男監督の特集上映だ。「いれずみ突撃隊」と「温泉あんま芸者」の2本立てを楽しむ。実は石井監督の作品はちょいちょい見ているのだが、いずれも監督目当てでは見ていなかった。「網走番外地」シリーズだったら、まずは健さんの映画であり、その後のエログロ路線であれば当然裸目当てであった。新東宝時代の「女王蜂」シリーズはもちろん三原葉子さんだった。唯一監督を意識して見たのは「実録三億円事件 時効成立」ぐらいで90分ちょっとで話を語りきる、そのテンポにビックリしたのであった。

今回の特集上映は怒涛の30本ということで、意識を監督に向けて見ることにしてみる。「いれずみ〜」は健さんとのコンビ作で「網走〜」の前年とまさにコンビの爆発を予感させる満州戦線を舞台にした戦争映画。浅草でしのいでるやくざモノの一等兵が主人公。上官に苛められている津川雅彦を見逃すことが出来ず、上官に楯突き仁義まできってしまう。そんな気風のいい男だから当然従軍慰安婦にももてる。NO1の朝丘雪路に惚れられるが、上官の安部徹も雪路をモノにしようとしていて最後の決闘で健さんの身代わりで雪路は安部の銃で死んでしまう。しかしそのとき広東軍の大攻撃に遭い舞台は全滅してしまうのであった。

戦争の悲惨なムードより、やくざの討ち入りでの全滅といったほうがあっているような乾いた魅力がある。健さんのキャラクターはまさに「網走〜」の原型だろう。また従軍慰安婦との交流も見せ場のひとつで、NO2の三原葉子扮するお金を貯めて日本に帰り店をやる夢をもっている慰安婦のキャラクターは石井監督のミューズである三原さんしか出来ないだろう。もちろん汗まみれの胸の谷間のサービスカット満載だ。

三原さんは「温泉〜」では屁ばかりこいている芸者をコミカルに演じているが、そこそこの年なので売れなくなっている悲哀も出している。68年度作でいよいよ監督の代名詞ともなっているエロ路線のスタートのところだが、実は後半はとっても叙情的な展開になっていて、この手の人情喜劇も撮れるところを証明しているのだ。橘ますみの若い芸者の処女をなんとか若い街の医者に捧げたいと言う純情はぐっときますね。

代名詞としてはエログロ監督なんて言われてしまうが、こうしてジャンルの違う映画を見てみると、この監督をジャンルで括ることが無理なことが分かる。括るとしたら“娯楽映画監督”でしょう。それだけ裸にしてもアクションにしても『絵』で観客を楽しませることを分かっている監督だからだ。といってもまだ見ている作品は多くない。しばらくはヴェーラに通って見ることにしようかな。