フランス映画に興味が持てなくなったけど…

どうもリュック・ベッソンが表舞台に登場してから以降のフランス映画が変わってしまって、いまいち興味がもてなくなってきている。確かに世界を相手にしたスケールの大きなアクション主体の映画で多くの観客を集めているだろうが、言語が英語であることも含め『ああ、フランス映画だなぁ』と思わせる作品がなくなっているような気もする。

もっとも、こちら側にも原因はあるのかもしれない。実はちゃんと公開されていても見逃してしまっている可能性もある。しかし、そうした公開形態が単館で短期間であることは事実で、例えば2009年度のセザール賞獲得の「ジャック・メスリーヌ」にしたところでシャンテと武蔵野館でちょっとでお終いだった。

かつて正月のメイン興行がアラン・ドロンカトリーヌ・ドヌーヴの映画だったりしたことを考えれば、その規模感の比較をしてもその違いは歴然だろう。それだけマネーメイキングとしてのスターがフランス映画にいなくなったからか?上記のふたり以外にもジャン・ギャバンジャンヌ・モローがまだ元気だった時代、ジャン・ポール・ベルモンドがいて、リノ・バンチュラがいて、ジャン・ルイ・トランティニャン、女優ではロミー・シュナイダーなどという凄い面子だった。その次の世代では、男優はジェラール・ドパルデューダニエル・オートゥイユ、女優はアジャーニ、ビノシュ、ソフィー・マルソーエマニュエル・ベアールと小粒となる。

それ以上に作風が両極端にアートか、ベッソンアクションかのようになってくる印象が強く、年をとってきたこちら側には両方辛い。フランソワ・オゾンも見りゃ、面白いかもしれんがそれ以前に『楽しい映画見よ!』になってしまう。アルノー・デプレシャンジャック・オーディアール、マシュー・カソヴィッツ、ジュネなども、フランソワ・トリュフォーと比べてしまうと…。

そんな中、封切りで見逃した「オーケストラ」を映像メーカー内覧試写で見せてもらい、久しぶりに面白いフランス映画を見た!という感想を持った。フランス映画的なものを残しながらも、全世界に通じるエモーションがちゃんとある。

ロシアのボリショイの名をかたった、寄せ集めクラシック楽団がパリのシャトレ座(セザール賞の授賞式の会場ですよね)での公演を成功させるまでの笑いと涙のヒューマン・コメディですな。泣かせどころがちゃんと(押し付けがましくなく)クライマックスにあり、作劇としてもしっくりきます。

楽団が指名したヴァオリンのソリストがかつてこの楽団のマドンナの娘で、死んだ両親の描写で見せるロシアのユダヤと体制批判がスパイスとしてきいている。その残された一人娘のソリストと楽団のチャイコフスキーの演奏がどんどん良くなるクライマックスは魅せますね!

この娘の育ての親として登場するのが大好きな女優ミウミウでお久しぶり!彼女演じるソリストのマネージャーも含む、登場人物のキャラがきっちりと描き分けられていて秀逸。典型的ユダヤ人(ウディ・アレンそっくりですな)の老人が息子ともども商売上手な描写は笑わせる。ベッソン以降の品格なきコメディ群(代表は「TAXI」)の笑えないものではなく、フランス映画が本来持っていたユーモアがここで再確認出来たのでした。

これだったらもっと積極的にフランス映画見よう!と思えるのですけどね…。