20世紀フォックス75周年の書き足し

会社が発行するフリーペパーに『祝!20世紀フォックス75周年記念』という原稿を書かせてもらったが、なんせ文字数に制限があるので、書き足りない部分が出てきたので、勝手にここで書き加えないと気がすまなくなっていた。主に思い出とか、コネタだとかにほとんど触れられなかった不満解消ですね。

洋画を真剣に見始めて(中学3年生、1972年ですね)から、初めて配給会社(ようするにハリウッドメジャーの会社)を意識しまじめたのは、おそらく「ポセイドン・アドベンチャー」のFOXからだった気がする。高校1年生の5月だったと記憶するが、学校の歌舞伎見学の課外授業をサボって、今はなき有楽座に見に行ってしまった。なぜ平日にサボろうと思ったかは歌舞伎がいやだったのと、「ポセイドン〜」が大ヒットで日曜の大混雑を避けようとしたのだろう。

原稿ではウィリアム・フォックスと20世紀社の合併から触れたが、その原稿に登場しない75周年にまつわる重要人物(文字数1200では無理!)のひとりが、この「ポセイドン〜」の製作者である、アーウィン・アレンである。もう大作映画といえばこの人である。その後アレンは歴史に残る超大作「タワーリング・インフェルノ」を製作することになるのだが、その製作はなんとワーナー・ブラザースとの共同製作となる。

同じようなビル火災の映画の企画が同時進行していたので、それでは一緒に作ろうという、割と今では(リスクヘッジを目的としているので当時とは主旨が違うが)当たり前の共同製作の先駆け映画となった。よって現在でも「タワーリング〜」はアメリカではFOXの映画、日本ではWBの映画と別れている。同じような例は「タイタニック」のアメリカはパラマウント、海外はFOX(日本も)となっている。

その2社のライバル関係からは考えられないことだ。この2社のライバル関係は映画史の中でよく作品に反映されているのではないかと勝手に考えている。WBの「俺たちに明日はない」対FOXの「明日に向かって撃て」、WBの「ダーティ・ハリー」FOXの「フレンチ・コネクション」WBの「スケアクロウ」FOXの「ハリーとトント」という具合である。高水準で、比較対照になりがちな作品がぶつかるという現象ですね。だから最初の「タワーリング〜」も似た企画だったのか?

日本における映画宣伝でも2社のライバル関係は凄く、同じフィルムビル(伝説の洋画配給専門ビルですね)内のWBとFOXに名物宣伝マンが居て競い合っていたのだった(全盛期は70年代後半ですかね)。一人はWBの早川龍雄氏、もう一人はFOXの古澤利夫氏である。

『ロードショーが待ち遠しい。早川龍雄の華麗なる映画宣伝術』という早川氏の伝記本にも、そのライバルとしての日々の切磋琢磨が登場して大変興味深い。また池波正太郎氏の映画エッセイには度々WBの早川氏の名前も登場する。一方FOXの古澤氏は「スターウォーズ」全6作の宣伝すべてを仕切った、世界でたった一人の人物としてルーカスからの信頼厚い人物というように、かつてはそうした宣伝マンが各映画会社にいたのだ。

一番残念なのは、そうした映画会社の歴史&人物を、その会社にいる社員たちが知らなくなっていること。それが映画宣伝とは無縁のホームエンタの人間だからといって、知らんでもいいというのは、あんまりにも寂しいではないか!しかしそれが現実の姿だろう。

FOXの75年の歴史からいささかズレたが、アーウィン・アレンとWBとのライバル関係は本当は触れたかったので…。あとはFOXと言えばザナックである。今でも伝記本の翻訳は流通しているのだろうか?ハリウッド関係者伝記本の中でトップを競う面白い本だった。ジョン・フォードの名作はザナックファイナルカットで成立したというのは、あんまり興味が実はない。

ザナックで好きなところは大作戦争映画「史上最大の作戦」を成功させるくだり。「クレオパトラ」の大失敗で会社存続の危機であったFOX(なんせ今の価格で3億ドルの製作費の失敗作ですからね)をザナックの入魂のノルマンディー上陸作戦で救ってしまったのだ。

だから「黒澤明VSハリウッド」にあるように、もしザナックの権力が絶大であったなら、黒澤は「トラ!トラ!トラ!」を降板するようなことにはならず、映画史に残る太平洋戦争映画を作ったのではないかという意見にも賛成なのだ(イーストウッド硫黄島2部作でやってみせたことですよね)。どれだけザナックが女にだらしなく、女優を片っ端から手を付けていても映画の目利きが随一だったと言うことである。

その女好きから、フォックスにはモンロー以外にも「女はそれを我慢できない」のジェーン・マンスフィールド、空軍のアイドルだったベティ・グレイブルファム・ファタールも魅力的なジーン・ティアニーなどなど、極上な女優陣がいますね。

マリリンで意外なのは出演作にハワード・ホークスジョン・ヒューストンヘンリー・ハサウェイ(「帰らざる河」だから当然か)という、いかにもという男性監督に起用されているというところ。まあ、ホークスはローレン・バコールの発掘人だから当然でもあるか?)

「シェーン」の主演俳優として永遠に名を残したアラン・ラッドの息子のアラン・ラッドJrが居たからこその「スターウォーズ」の成功であるが、ラッドJrはその後自らのプロ「ラッド・カンパニー」を設立。「ブレードランナー」「ライトスタッフ」という永久不滅の作品を残す。その現在のパッケージ権はWBという、これまた不思議な関係。

アルフレッド・ニューマンの『フォックス・ファンファーレ』は「スターウォーズ」のオープニングとワンセットのように考えられてもいる。その関連は切っても切れないものだから、最後のエピソード3はもしかしたらルーカスがFOXと契約しないかもしれない、と言われた時には、オープニングの魅力はどうなると考えましたよね。

でも現在のFOXで公開作品が「プレデターズ」だけとなると、いささか寂しい。実はもう「アバター」クラスともなってしまうとジェームズ・キャメロンの映画であってFOXの映画という感覚はなくなってしまい、今のFOXの魅力はサーチライトピクチャーにあり「リトル・ミス・サンシャイン」から「クレイジー・ハート」へと継承されている。しかしサーチライトはオスカー獲得にはなるが、FOX得意の『娯楽作品』での大ヒットには程遠いのですよ。

アバター2」なんて絶対いらないって、気合を入れて100周年に向かってほしいよね!