今年は時代劇を堪能しているなぁ

藤沢周平という作家の名前は知ってはいたが、読んだこともなく、その世界を教えてくれたのは映画「たそがれ清兵衛」だった。もちろん、その後の山田洋次監督の2作品でも勉強させてもらったが、書かれた時代小説そのものは読んでなく、映画も「蝉しぐれ」は見逃しているという不勉強さだった。

ところが図書館で本を貸りるようになって、「赤ひげ」読んでみよう、「篤姫」読んでみよう、「功名ヶ辻」読んでみようと原作系から時代小説にも目を向けた瞬間に長編の代表作「蝉しぐれ」を読み深い感銘を受けた(映画館で見たいので映画版はまだ見ていない)のであった。

次は短編集である。江戸を舞台にした心温まる人情物(「消えた女」だっけ?よかったなぁ)から海坂藩物へと読み進め、“これに「隠し剣鬼の爪」入っているじゃん”と思って読んだ短編で「必死剣鳥刺し」に出会ってしまったのだった。

要するに初めての原作を先に読んでいる藤沢周平映画だった訳だ。あの異色で珠玉の短編がどんな映画になっているのかと思って期待半分、不安半分で見たのだった。

短編からの映画化は、ほぼ描かれているエピソードすべて盛り込めるという利点はあるものの完璧な映画化にビックリであった。見事なり!!

まず、原作との大きな違いは主人公の兼見という男は原作では大きな体の醜男となっていて、そこがそのままだと映画的にいささか無理があるので、そこを実直な男とだけし、豊川悦司とした点。それから死んだ妻を映画では戸田菜穂に演じさせはっきりとした実像として描いたことだろう。

あとはエピソードのなかの膨らましがうまく、池脇千鶴演じる理央(この字でよかったっけ)が兼見を世話している日常の描写が良く、もちろん泣き顔や喘ぎ顔もよかったのだが、一番ぐっと来た場面は、畑を耕し収穫を向かえ、きゅうりを捥いでいるときの幸せそうな表情だ。そしてその時に夕立がやって来る、その日常の描写の的確さに感銘を受けたのである。

藩という権力組織がまず描かれ、武士の一分も入っていて娘との情愛、そして壮絶な殺陣と藤沢文学の醍醐味が全部入っているのだ。もちろん山田洋次監督版にも、そうした魅力は大有りだが、殺陣の凄さが勝る分だけ『時代劇!』というバランスではこちらの配分の方が心地よいのですな。

その殺陣だが、文字でイメージした通りの場面の連続でまたまた嬉しい驚き、『鳥刺し』もまったくイメージどおりだった。リアルな殺陣ということで血もかなり見せるが、その部分も活字の忠実な映像化なのだから仕方ない。

最後の立ち回りの相手となる吉川晃司もたっぱがあるので、まあ迫力と絵面がいいったらない、また中盤の吉川の殿様に忠告する場面の台詞回しが見事!こんなに綺麗に台詞が言える俳優だっけ?見直しました!一徳さんはまあ、得意の役どころでなんか現代劇に置き換えたら「相棒」の役人そのままじゃないかいな。

今年はこの後にも「十三人の刺客」(期待もあるが不安が大きいのだが)、「桜田門外の変」「最後の忠臣蔵」(これは試写で見ましたので、そのうち書きます)と時代劇が目白押しで、楽しみな後半戦である。映画だって大河ドラマに負けていないところと見せないとね。