オヤジも凄いが息子も頑張っている!

インセプション」でなにが凄いかって渡辺謙の存在感だろう。それはもう役の設定上で必要な日本人の役者ではなく、KEN WATANABEという役者をキャスティングしたいから設定を日本人にしたとしか思えないほどである。

よって、なんの違和感もなくハリウッド大作を見ているという感覚でしかないのだ。特に今回は純粋な現代劇だからオリエンタルな魅力とかは必要とされない。本当にビリング2番目の俳優として映画のキーパーソンになっているという自然さに驚くのである。

そんな偉大な父を持つと2世はなかなか辛いものがあるだろうが息子の渡辺大も「ロストクライム閃光」で主役を務めている。見る前は奥田瑛二主演とばかり思っていたが映画を見進めていくと、はっきり大が主役だとわかってくる作りになっている。

監督は11年ぶりのメガホンの伊藤俊也。奥田と大は殺人事件捜査のコンビ刑事だ。やがてその事件は、なんとあの3億円事件と関連があると分かる展開だ。「初恋」も題材として3億円事件があったが、この「閃光」と比べるとやはり68年の時代感に差を感じてしまう。それは監督自身があの時代をリアルタイムで通過してきている感覚がなせるものだろう。

奥田は若き日の「海と毒薬」でオヤジの謙と競演してしているという不思議な縁。また奥田の娘の安籐サクラも独自の存在感を発揮しているという父側も似た境遇が面白いではないか。

監督の愛情はベテラン女優たちの扱いにも見られる。中田喜子、かたせ梨乃、烏丸せつこ(彼女が一番魅力的)熊谷真実などあまり最近の映画では見られない女優陣にしっかり仕事してもらっている。また若い川村ゆきえにエロ担当を任せつつ、結果それだけではない魅力を引き出して(彼女の映画キャリアでは最高)いる。まあ梶芽衣子を「さそり」で大爆発させた目利きであることを振り返れば、当然なのかもしれないが…

内部の警察から(なぜ、そうなるかが映画の肝)追われるはめになり、追っ手をまく為に利用した男に向かって「このことを誰かに言ったらただじゃおかないからな!」と凄む台詞回しとその表情はオヤジゆずりの迫力で、今アイパッチ着ければ「独眼流正宗」出来るんじゃないかいなと感じるほどだった。

監督も大にワンカットの演技を要求。殺された男の家がラーメン屋でそこでラーメンを食いながら捜査の話をするワンカット。奥田も大も本当に1杯ラーメンを食いながら台詞を言いカットは割らずの芝居だ。これは今時の監督は要求しないだろうと思わせる、面白い場面だった。

佐藤浩一、中井貴一もまったく2世にある親の七光りなど関係なくなった俳優となったが、大君もそうした道を進んでほしいですな。追っかけていきますからね!