最新日本映画考

「告白」の興行が凄いことになっている。あっという間に20億の数字に達して、更なる口コミで(3週連続前週の土、日対比100%以上)30億も見えてきている。こうした興行分析は専門家に任せて、純粋に映画の成り立ち方だけで見るなら、これもまた最近の日本映画の特徴を現していると言える。

作家性という意味で言ったら、局製作の監督の姿が見えない作品とは一線を画し、この「告白」と「アウトレイジ」は中島哲也北野武監督という作家の姿が見えるが、例えば「書道ガールズ」「RAILWAYS」「座頭市」「フラワーズ」など、すぐには監督の名前が出ない。

なんとか坂本の名前が出てくる「座頭市」はともかく「フラワーズ」が小泉徳宏だったとはエンドクレジットまで『そういえば監督だれだっけ』となってしまう。この監督ありきの作品群と監督の名前がいらない作品群は両極端な部分で今の日本映画の大きな特徴だといえるだろう。

そして、今度は監督が見えようが、見えまいが共通した成り立ちの特徴は、すべてパーツの映画となっていることなのだ。もっとも良く分かる例は「フラワーズ」。6人の女優の華麗なる競演と言えるが、本当に競演しているのは鈴木京香広末涼子のパートと竹内結子田中麗奈のパートだけ。大きな時代の流れの中での物語りと表面上は言えるけど、本当は一人の主人公でがっちりした話が作れなくなった今の日本映画の脆弱振りが見えるのだ。

ほんとなら、仲間由紀恵の母から京香と広末の物語で家族のドラマで成立するのに、それだけでは資生堂がNOだろうし、もっと話を広めなきゃ、とこれまたひとつの話で成立する蒼井優の物語のいれなきゃならなくなる。これぞ究極のパーツ映画(オムニバスという形式もとらない)。まあ、今の時代に「フラワーズ」のような映画が必要かという疑問はひとまずおいといて結局イメージどおりの日本の女性を演じる女優を拝見するものなのだろう(確かにそこは豪華さを感じますからね)。

それは「アウトレイジ」にもいえる事で、やくざを楽しそうに演じている男優陣の顔を見る、その楽しみで成立している、これまたパーツ映画だ。もっとも武の映画は最初から場面、場面が一個のアートとして成立させてあったものを最後に集めていたので歴史あるパーツ映画だ。それはエピソードの集合体で成り立つ中島哲也監督の「下妻」「松子」「パコ」にも当てはまり「告白」も一本の大きな女の復讐劇ではあるが、生徒側の部分、先生の部分、親の部分とパーツを集めているのだ。

パーツ以上の『小ネタ』で世界観を構築して受け入れられた「踊る大捜査線」はもっともその典型で、「3」はそのバランスが悪く感じる。要するに『小ネタ』に終始しては知っているファンに対してのみの世界になってしまい、映画一本単位で語ることが不可能となってしまい、結局面白さに欠けてしまうのである。

今回は引越しと青島の『死』と、大きな事件の按分が悪く、パーツではいいけど、全体で見ると『違う!』となる。なぜなら今回は意外と事件がしっかりしているから、このサスペンスと捜査の対立がもっと必要なのだ。それをしないのが「踊る」というなら、最初のTVシリーズにはあったぞ!と言いたい。なんぼ青島の物語と言いながら夏美以下のマンガ喫茶への捜査のパーツをもっと描くべきだ。

その部分と日向の部分が後半の核となり、青島の活躍となるべきが『外す』世界観を強調しすぎている。「1」の事件解決から青島が刺されて、ラストのリハビリまでの『外していない』部分がいかに良かったか、なのである。カット単位では見事なものもあり、『死ぬ気になったら〜』の青島が見つかったコートを羽織りながら行く横移動のカットは“す、素晴らしい!”

「踊る3」も2時間20分以上と、全く長い!ファンであるがゆえに許しがちではあるが、邦画全体の問題事項として、あの「踊る」が100分で出来てるよぉ、と一石を投じてもよかったのではなかろうか。

その点、「借りぐらしのアリエッティ」は100分未満の一人の少女の物語で完結していて見事と言うほかない、しかしもし、宮崎さん自ら監督していたら、もっと人間側の描写も入れていたかもしれず、もうすこし長くなったかな?ともかく小人の家族の物語の一本線が良いのだ。その対極なのが「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」だ。

もう大森監督って何歳?って思うぐらい今や死語のようになったATG的青春映画の体裁である。「俺たちの荒野」みたいな映画だよ、と友人の好意的評を聞いていたが、どうみてもATGでしたね。好意的なことは確かだ。なぜならちゃんとジュンとケンタの話で終始して、そこに菩薩的カヨちゃんが絡むシンプルな構成だからだ。しかしロードムービーとしてはエピソード入れすぎて結局長い。エピソードは一個じゃだめかね。田部ちゃんの今時の“男の年収は?、結婚は?”などと語るアッパラ女を登場させ、カヨちゃんを際立たせるだけじゃだめかね?

面白かったのは上映終了後、翔太と健悟を見に来た若い女の子2人が『良くわかんなかった、ネットで誰かに教えてもらおうっと、あたい達には予告の「ハッチ」のほうがあってない?』などとケラケラ笑っていたこと。その女の子に劇中の田部ちゃん演じる女の子を見ることが出来た。失われたATG的青春像を描くことが、逆に現代の若者を切り取ってしまったその皮肉がおもしろい!