結果、岸田今日子さんの日で

阿佐ヶ谷ラピュタ岸田今日子特集上映としてかかっている「女の子箱より・夫が見た」を相変わらず若尾文子さん目当てに見に行く。増村保造監督の堂々たるメロドラマを堪能。先日の文芸座の特集上映ではもちろん増村&若尾としてのくくりでしたね。

まあ、タイトルバックからもう若尾さんの入浴シーン!たっぷりときわどいシーンを楽しむが(吹き替えの肢体だろうが若尾さんと思い込む)、実はそれは人妻の退屈な日常を現すファーストシーンだった。

川崎敬三扮する夫は会社人間で家庭を顧みない。その会社が若き実業家(田宮二郎)に株の買占めにあっている。買占めを防ぐ役目を専務から受けた夫は株主名簿を家に隠す。実業家はその妻である若尾さんに近づくのだが・・・という話が実にテンポよくまとまっているのに驚く(上映時間92分)。

岸田今日子は田宮の実業家を愛していて株の買占め用の資金を色仕掛けで調達するバーのマダム。その狂気の愛が悲劇を生む。その田宮の犯罪の匂いのする三角関係(さらに江波杏子のおんなスパイもからむ)がものすごくヨーロッパ的な感覚でさすが増村監督ですね。

でもやっぱり若尾さん、最初に田宮にキスされたあとの無垢な人妻とも妖艶な人妻ともとれるその表情は素晴らしい!自分への愛をとるか、男の夢と欲望をとるかと迫る表情にも、ほれぼれと見とれてしまう。しかし、今回は岸田さん、最後の場をさらう狂気の表情は独壇場だろう。

阿佐ヶ谷から神保町へ移動。神保町シアターの喜劇映画特集の「陽気な未亡人」へ行く。お目当ては淡島千景さん!日本映画専門チャンネルで放送したときにはちゃんと見ていなかった豊田四郎監督の艶笑喜劇。淡島さん以外は新珠三千代池内淳子水谷良重と女優を見せる映画で、なんとここでも最後の場をさらってしまったのが岸田さんで、これまた死んだフランキーさんの二号さんでバーのマダム役で、これまた見事!今日一日は岸田さんの日になってしまいました。

この「陽気な〜」も上映時間は98分。プログラムピクチャーとして2本立てのうちの1本で上映とはいえ、100分以内に収まっている。それに引き換え何故いまの映画は長いのだろう(アメリカもだが、ここで問題にするのは邦画)。

座頭市」2時間11分、「RAILWAYS」2時間10分、そして8月公開の「東京島」が2時間9分ときた。どうしてここまでの上映時間が必要なのだろう。少なくともそうは思えないものばかりだ。特に「東京島」はシンプルなプロットで面白くなりそうなのに(無人島で22人の男と1人の女のサバイバル!)、起こった出来事のみの羅列で上映終了してから、『それで』と問いかけたくなるもの。

要するにドラマを語るのに必要な時間と台詞の使い方が不用意なほど多いのだ。なぜ必要最小限で語れないのか?「東京島」なんかは男たちの対立と権力分布の逆転と、男女間の主従逆転で充分なのにエピソードを入れすぎて、後半突然のキムという女性の登場は全く前半を殺してしまっている。窪塚くんもどっかに消えてお終いじゃ消化不良もはなはだしい。

まだ100分、淡々と港町の美容院に集まる人々の日常を描いただけの「パーマネント野ばら」のほうが良い。いささかエピソードが拡散していて、もっと主人公のナオコに焦点をあててその恋愛模様を描いていたらグッときたかもしれないが、監督の資質としてそれをするタイプじゃないかもしれない。

基本的には邦画だったら「今度は愛妻家」洋画だったら「シャッターアイランド」と同種類の映画ということが出来るだろうが、登場人物たちの行動がその“謎”からず〜っと遠い位置にいたので最終的にびっくりだったけど伝わりにくくもあった。

でも久しぶりにスクリーンで見た菅野美穂は良かった。可愛らしかったし、色っぽくもあった(これはビックリ!)本当なら「東京島」の木村多江さんの方にそそられなければイカンのに
まったく多江さんをそう描こうとしてないので、ちゃんとそそられませんでした(これは期待している人が多いからブーイングでますね)。

というように、昔の映画に対していまの映画との差がこんなに分かってしまっていいのだろか・・・