伝統は守られた!

かつて邦画各社には、それぞれのカラーがあり、東宝であったら社長シリーズに代表される喜劇映画や、快活明朗な青春映画(その代表が「若大将」ですね)。東映は時代劇と任侠映画などなど。もちろん、そればかりでないが観客へのアピールと言う点でそうしたカラーを打ち出し差別化を図っていたのだ。

それでは松竹はカラーは?それは「男はつらいよ」に代表される家族と人情の映画と言い切っても過言ではないでしょう。家族と描くという点ではなにも『寅さん』だけではなく、小津監督の映画もまさに家族の映画ですね。

そうした松竹の伝統であった家族と人情の物語が「釣りバカ日誌」シリーズが終了したことで失われてしまったと思っていたら、その伝統が意外なところで守られていた。

松竹配給、ROROT製作の「RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語」である。自社製作で出来なかったことは時代の流れで仕方ないとして、作品で描かれる家族と人情のお話にはまさに『伝統は守られた!』と喝采をあげたい。

一流企業の仕事人間だった男が親友の死と母親の病で人生をかえるという話。そして男は幼いころからの夢だった故郷島根を走る電車の運転手となる。前半の企業戦士の時は妻とも娘ともうまく関われない男とその家族の再生がさわやかに描かれる。

またのんびり走る電車とそれを動かそうとする運転士、車掌そして地元の乗客との人情話もまさに松竹の十八番である。気をてらわず役者の芝居をしっかり見せる絵つくりが好感度大である。反面上映時間はいささか長いがしかたあるまい。

出演者でお母さん役、奈良岡朋子、地元の親友役に中本賢って一瞬これって「釣りバカ」?と思ってしまうほど、ちゃんと松竹!脇の役者も渡辺哲、笑福亭松の助、宮崎美子甲本雅裕橋爪功高島礼子などなどちゃんと演技を見せられる面々ばかり。これをタイプキャストと言うなかれ!

そして嬉しいのは本仮屋ユイカがぐっと大人になって魅力的なったこと。ここに父と娘の絆を描く、松竹伝統のお家芸があったのです。

実はこうした映画会社カラーを発揮してくれるのは外部の製作陣で、このROBOTをはじめ、東映やくざ映画北野武が「アウトレイジ」、正統的な青春映画「武士道シックスティーン」はWOWOWだったりだ。

残念ながら東宝にそうしたカラーを継承した作品が封切られていないと感じる。局製作のヒットものの作品が強いから仕方ないかもしれないが、たまにはサラリーマンコメディの小品でいいので作ってはくれませんかねぇ。