増村保造と若尾文子

以前に角川シネマ新宿でも特集上映された増村保造作品群には名コンビである若尾文子主演作があるというわけで、池袋文芸座では2人のコンビの特集上映となり、「妻は告白する」と「爛<ただれ>」の2本立てに駆けつけ、大いに堪能する。

本当に恥ずかしいことに、いままで実は「妻は〜」を見ていませんでした。増村&若尾コンビの最高傑作の誉れ高い作品も見ていないのに若尾さん語っていました。どうもすいません。

いや〜、身震いするとはこのことですね。愛の純粋と狂気を見事に描いています。脚本は井出雅人。この時代の映画の数々を見て感心するのは、常に脚本家と監督とが戦って画面を作り出しているところ。脚本の行間をどうしたら独自の映像表現とすることが出来るかを競い合っているのがよく分かります。

登山中の事故で、妻は夫と繋がれていたザイルを切って夫を事故死させたと裁判となる。さらにその登山に同行して妻と助けたのが愛人であった。この状況から物語は裁判劇の進行をとうして、本当に事故であったのか、妻の殺人であったのかを描ききる。

よく増村をもっとも早い日本のヌーヴェルヴァーグというが、確かに後半の川口浩と戯れる若尾の肢体をとらえるカットの構図にその特徴が現れていてゾクゾクする画面である。フランス映画でいったらルイ・マルだなぁ。「妻は〜」演出の見所のほうがアリ!

一方「爛」は新藤兼人の脚本である。だらだらと関係を続けていた愛人同士が(田宮二郎と若尾)結婚後、自分の姪に夫との関係を知らされ姪をむりやり見合い結婚に追い込むという物語。要するに愛人であった若尾が田宮の元妻から奪い取ったことが、再び今度は自分に襲い掛かるという2重構造。

これは脚本の勝利。すべての登場人物たちを状況の爛れた関係もじっくりと展開させる。しかし、演出も負けていない。小林節雄のキャメラの構図は左半分に人物配置とし、その人間関係の不安定さを表現してみせる。

まあ、この若尾さんは下着姿のオンパレードで魅せる魅せる!そして姪と夫の情事を知った時の狂気の暴れようたるやアクション映画顔負けの立ち回りだ。そうした女優の魅力優先に見ようとしたこちらの不埒な感性をあざ笑うように、結局、この二本立てはどちらも脚本家と監督の戦いの結果生まれた作家の作品だったのですね。