らくだ工務店「カラスの歩く速さ」

会社の同僚の計らいで、下北沢の駅前劇場というところで上演されている、らくだ工務店という劇団の「カラスの歩く速さ」を観劇する。平日の夜の回、満席のところ『ご招待』となってまことに恐縮である。

こうした小劇団の演目は、初めてといっていいだろう。先日「上海バンスキング」を渋谷のシアターコクーンで見たが、あれを、もう小劇団の演目とは誰も言わないだろう。

思い返せば20代の頃に飲み屋で知り合った女の子が転形劇場に所属していたので(要するに食えないからスナックにバイトしてた)、今はなき赤坂の小劇場に見に行ったが、なんとそれは前衛無言劇で感想としては、ちょっと趣味じゃないなぁ、だった。

そもそも、自分にとっての演劇はイコール王道の商業演劇で、初めて見た芝居が東宝の帝国劇場での「ピピン」で、翻訳もののミュージカルから入っていて劇団四季の「イエスキリストスーパースター」(まだ、日本ではジーザスが一般的でなかったからイエスとした)を渋谷のパルコ劇場で見たりして喜んでいたのである。

ミュージカルではない一般の芝居でも、やはり四季の「ベニスの商人」だったり、芸術座での「奇跡の人」であったり、また蜷川演劇が今ほどチケット入手困難ではなかったので「近松心中物語」や「三文オペラ」を普通に見ていた。

だから逆に小劇団の演目に不慣れであり、敷居も高く感じつつ「カラス〜」を見始める。

安物の雑居ビルの中にあるホストクラブが舞台、店の中のワンシュチエーション。そこに様々な人物が出入りする。その店のホスト3人に、青森から出ていたばかりの新人で『おにぎり』と源氏名付けられる若者、隣の店のランパブの韓国人のホステス、リンちゃん。ある日店を訪ねてくる18歳の少女などなどである。

個人的な感想となってしまうが、自分が映画でも演劇でも求めるものは“物語”である。ストーリーの中心となる主人公がいて、根幹となるエピソードがあり、観客に預けても構わないがラストシーンがちゃんとあるものだ。

しかし、この演劇には物語があえて排除されていて、要するにその空間にいる人間たちの日常風景となっているので、一言で説明できる話はない。そこが自分にとって新しい経験でもあるが、今ひとつめり込めない部分でもある。

もしも気の良いランパブのリンちゃんに対するリョウ君のかかわりを膨らませて、売れないホスト達の一発奮起の形でリンちゃん救出作戦的な話にして、そこに父親探しエピソードが適度に絡まる展開としたら、相当好みだ。

でも、それって小林正樹の名作時代劇「いのちぼうにふろう」だなぁ、もしくは「浪人街」だ!となるとこの演劇の作者は意外と時代劇をちゃんと見ているのか?そしたら凄いぞ、ただ自分の体験エピソードだけを描いただけではないんじゃないか?となるのだが・・・

だから余計に惜しい!のである。もっと物語を!

大きな器を相手にした商業演劇では、このエピソードの羅列だけでは無理でしょう。この劇団がこのままこうした空間での演劇だけでいくのだったらそれでも良いが、もし意思があるとすればもっとメリハリがあるお話が必要だと思ってしまうんですよ。

でもそれって自分が求める話の展開にならなかったからだけなんじゃねぇかって言われればそれまでですが。

そして登場する女優陣達がみんな素晴らしく、目を見張った。とりわけリンちゃんに扮した笹峰愛に見惚れてしまった。これは単なる好みではなく(多少あるが)あて書きのようにぴったりのキャスティングじゃないでしょうか。だからよけいにリンちゃんのエピソードが気になるのですよ!

でも今年の10月にある公演も(今度は払います!)見てみたいと思わせるものは大いにありましたので必ず行こうと思います。