「バトルシップ」の向こうに見えるハリウッドの弱体化

日本におけるアメリカ映画の公開時期は、それぞれの配給会社の思惑とブッキング次第で、様々となっているのが現実である。ソニー・ピクチャーズのように、ひたすた日米同時公開が基本ラインのような所もあれば、ディズニーが配給するこの夏の大作「アベンジャーズ」のように、世界中で一番最後の封切だったりだ。そんな中、全世界で一番最初の公開となったのがユニバーサルの100周年記念作品「バトルシップ」だ。まぁ、重要な役で浅野忠信が出ているのでハリウッドが気を使ったのでしょう。

映画は、熱いうちに食ったほうが美味いといったような食物系ではないので、早く見たから面白い、遅かったら面白くない、などということはない。冷静に「バトルシップ」を見てみた。あまり良い評価は聞こえてこなかったが、実際に見てみて『なるほど、こういうことかぁ』と、その展開のモタツキぶりの確認になってしまった。この映画こそ弱体化したハリウッドの象徴的存在と言えるのではないだろうか。

公開前の宣伝展開で入ってきた情報では、ハワイ沖で世界各国集合しての海軍の実戦演習中に、侵略してきたエイリアンとの戦争が始まる、というものだった。そういったプロットなら、まずは画面に大きく映し出すのは戦艦であるべきだ。そして船員が山の上にそびえるレーダーを『なんだろう』と思い確認すると、宇宙への信号発信の基地だったと分かるとか、物語が進ませながら謎を提示したり、キャラクターを確立させたりしていくのが脚本の常套手段だろう。

例えば、スケボーを持った少年が家に入って来て「ドク?」と声をかけてもいない、んじゃってんで巨大なアンプの前でギターを弾くと大爆発、そこへドクから電話がかかり、時計がちょうど1分狂ったと喜び、今晩実験をやるからショッピングモールの駐車場へ、ビデオカメラを持って来いと言われる。もう、お分かりですね「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の冒頭約5分の場面だ。ここから何が語られているのか?を読み取ると…。

この少年マーティがドクという友人を持つ、ギターキッズで、スケボーに乗っている高校生で、どうやらドクは怪しげな発明をしている科学者らしい、実験とは時間に関わるものらしい。ついでにドクが飼っている犬の名前が『アインシュタイン』というのもここで分かる。この5分間にこれだけの情報量を入れ、この先の話に多いに興味を抱かせるものになっているではないか。それに対して「バトルシップ」の冒頭5分は、兄弟が酒場で飲んでいて、ダメな弟を兄は諭すが聞く耳持たず、弟はナンパのために閉店後のスーパーに潜り込んで『チキン・ブリトー』1本(金はレジにおいてくるが)持ってくるだけ。

これが「バトルシップ」という映画の始まりで良いのか?スーパーに天井から潜り込む場面で「ピンクパンサー」の音楽が流れてくるが、その緊張感のない画面に、ここでこの映画を諦めてしまったのだった。ただ、アホな弟の無軌道な行動を画面に描いただけで、キャラクター説明にも、次への展開への布石にもなっていない。ここまでハリウッドがシナリオ作りが下手になってしまったのかと嘆かわしくなるのみだ。

突然サッカーの試合になって、日本の艦長ナガタが登場して、この弟とライバル関係になるが、それも唐突でキャラクターを立たせていく過程が全くないのだ。二人が対立しながらも最後には認め合い、協力して戦いを挑むというシチュエーションに持っていくテクニックが無さ過ぎ。要するに人物描写が細かくないのだ。

唯一、“おぉ、そう来たか!”と思わせのがエイリアンに戦艦が全滅させられ、残った記念碑としての飾り物の『ミズーリ』を動かそうとする時に現れる老人軍団。そう、70年前のアナログ艦を動かせるのは退役軍人の爺さんたちだけ!これぞイーストウッドが「スペースカウボーイ」でやった話だ!ここは良い!しかしこの映画のもうひとつの欠点であるキャストの弱さがあり、この爺さんの中にビッグネームの老男優の一人でも入れていれば違ってきたのだが、それが出来ていない。浅野君と“この前火星に行っていたあんちゃん”の二人に、リアム“ジェダイ・マスター”リーソンだけでは弱すぎる。

この辺も現在のハリウッドの良くない傾向で、スターのギャラが高すぎるので、特撮主体の派手な映像で(一番の好例が「トランスフォーマー」)スターに頼らずに集客しようとする。その考え方にも一理あるが、ユニバーサル映画100周年記念作品と謳っているであれば、かつてオールスター映画と呼ばれた「史上最大の作戦」や「タワーリング・インフェルノ」のようにスター俳優を並べるべきだろう。同じユニバーサル映画でも「ペントハウス」はベン・スティラーエディ・マーフィマシュー・ブロデリックアラン・アルダケイシー・アフレックティア・レオーニと顔が揃えられているのに、と思ってしまう。

結局、エイリアン対人間の戦争の場面の、特殊効果が見せ場のみに終わってしまった。そのエイリアンもアイアンマンスーツの下は、ただの白髭生やしたお爺さんようで、なんと魅力に乏しいことだろう。義足の黒人軍人に見事な右フックを食らって、エイリアンの歯がスローモーションで欠けるカットはギャグでしかない!

ようやくアメリカでも公開されたが、成績は芳しくない。でも「アベンジャーズ」旋風を利用して言い訳が出来てよかったねぇ。今だったら全部「アベンジャーズ」のせいに出来るもんね。そうして、ホッとしているのは誰でしょうかねぇ。