ファム・ファタール映画にして欲しかったなぁ

あれは何ヶ月前のことだったろうか、写真週刊誌のグラビアで、笹峯愛の大胆な濡れ場の映画が紹介されていたのは…。その作品がようやく公開となった。タイトルは「彼女について知ることのすべて」。このタイトルではどんな内容かは全く分からず、まずは女優を見に、そして次に「永遠の1/2」(根岸吉太郎監督、時任三郎大竹しのぶで映画化)、「リボルバー」(藤田敏八監督、沢田研二で映画化)「ジャンプ」井上由美子脚本、原田泰造で映画化)と、その小説がけっこう映画になっている佐藤正午の原作だからという興味でレイトショーに駆けつける。

栃木あたりの地方都市を舞台に、そこに蠢く男女の欲望と犯罪を描いたものだった。物語は、いたってシンプルなもので、中学教師の男(鵜川)が出会ってしまった運命の女メイ、二人は恋に落ちるが、メイには別れたいと思っているヤクザ者の男(真山)が付きまとい、二人は“どこかに逃げても奴は追ってくる、だったら殺すしかない”と決断した鵜川は銃を手にする、というものだ。

まぁ、二人が出会った時点では鵜川には結婚を約束した美千代という女がいたのだが、メイはその美千代の高校の後輩という設定。激しくメイを嫌う美千代なので、過去に何かあったのか?もしくは鵜川をめぐって何か展開があるのかと思いきや、そこは意外なことにスルーとなった。よってもっとドロドロの愛憎劇があるのかと思いきや、激しい愛欲シーンの割に、あっさりとした印象となっている。

主演女優、笹峯愛に男性観客(私だけでしょうか?)として求めるものは、美しい肢体をくねらせての濡れ場シーンと共に、男を翻弄していく鵜川にとってのファム・ファタールとしての存在感だ。銃を手にし“本当に殺れるの?”と迫る見せ場の彼女の表情は魅惑的だ。これは2012年の「白いドレスの女」になれるか?と大いに期待し、展開としては真山を殺すために、鵜川を利用した形の男二人の殺し合いを、冷ややかに見つめる女(結果的に“悪女だよなぁ”ということ)というゾクゾクするものが襲ってくるかと思っていた。

ところがラストは意外にも真山殺しはメイ一人の犯行で、もう一丁あった銃で(多分、最後のSEXの後)メイが風呂場で真山を撃ち殺す展開で、鵜川は何もせず、6年後の現在となっての回想から、二人の再会(真山のお墓で)という良識的展開。確かにメイを最も必要としたのは孤独なヤクザ者の真山であったが、ショートカットにしたメイが(この時の笹峯も美しいが)、服役後の今は自ら殺した真山を思いやり、鵜川は取り残された未練の塊という形での結末。

こちらの期待したファム・ファタール映画にはならなかったのであった。不満ではないが、個人的にはそちら側の笹峯愛が見たかったのですよ!中盤が、そうした展開になったので、よけいにそう思う。

女優が美しく脱いでくれる映画を見る時の判断基準は(まさに現在特集上映中の)日活ロマンポルノ的に描ききれているか?またはATG的な感覚でドラマの中に、愛欲シーンを表現出来ているかどうか、のどちらかで見る。今回は大半がATG的な要素に満ち『そう、それでいいのよ!』と肯きながら見た。圧巻は真山のアパートを出た後、ひとしきり雨に打たれた後、思い返したメイがアパートに戻り、真山に迫っていくカットと、その時の表情ですね。殺しを迫った後、欲情したメイが鵜川の上にのしかかるワンカット描写も秀逸だった。

監督の井土紀州は、多くのピンク映画の脚本を書いていて、監督作品としては「行旅死亡人」が見てはいないが、記憶に残っているタイトルだ。個人的に絶賛している「不倫純愛」の脚本も手がけているからではないだろうが、なるほど、ドラマと濡れ場のバランスの按分が上手いなぁと感心と確認となった。瀬々敬久監督や、吉本芸人でありながら、監督としても才能がある木村祐一に信頼されているようだ。

アイドル時代の笹峯愛は、実は全く知らない。舞台で初めて見てから、自分の演劇ユニットを持ち、演出まで手がけると知り、今回の映画出演は大変期待していたのですよ。そして、その期待は裏切られることは無かった。それ以上に今後の活動の中で、映画の比重を高め、映画女優として今後も頑張ってくれればなぁと思うのでした。