新作「キラー・エリート」とサム・パキンパーという監督

サム・ペキンパーは、自分の映画史の中で特別な存在の映画監督だ。リアルタイムで間に合って見たのが「ジュニア・ボナー/華麗なる挑戦」からだが、一番最初のペキンパー体験は「わらの犬」だった。二番館での「卒業」と2本立て、ダスティン・ホフマン特集でした。記憶を辿れば1972年の春先のことだったと思う。なぜ、こんな昔話をしたかというと、ジェイソン・ステイサム主演の「キラー・エリート」という新作をみたから。「メカニック」がジェイソン主演のリメイク映画だったので、これもペキンパーの「キラー・エリート」のリメイクかと思ったのだ。そう「キラー・エリート」と言えばペキンパーの映画なのである。

ところが、ペキンパー監督には申し訳ないが「キラー・エリート」という映画、見ていることは確かだが、全く記憶に残っていないのだ。マコ岩松が出ていて、なんか忍者みたいなのが出てきたような記憶ぐらいで、どんな映画だっけ?が正直なところ。どうやら今回の新作とはなんの関係もないようだが、確信が持てないぐらい、ペキンパーの「キラー〜」に記憶がない。それだけ自分の中のサム・ペキンパー監督は1969年の「ワイルドバンチ」から1974年の「ガルシアの首」までに限定されてしまっているのだろう。

「ワイルド・バンチ」の前にチャールトン・ヘストン主演の「ダンディー少佐」があるが、いまいちペキンパー映画ではなく、「ガルシア〜」の同じ年には「戦争のはらわた」があるが、ドイツ軍視点のユニークな戦争映画で、シニカルな味わいに大いに評価するが、なんかもうひとつ入って来ない。恐らく「わらの犬」以外の全ての作品にある、消えゆく西部(メキシコ寄り)への郷愁が「ガルシア〜」で終わっているからだろう。

前記したとおり最初に見たのが「わらの犬」、そして旧新宿ピカデリーの大スクリーンでリバイバルされた「ワイルドバンチ」、今の池袋ヒューマックスの場所にあった池袋地球座という名画座で「ダンディー少佐」、旧池袋文芸座でかかった「砂漠の流れ者」の順で見た。まぁ「わらの犬」の衝撃はスーザン・ジョージの衝撃(見た人は分かりますよね!)とも言えるので、監督としてのペキンパーの衝撃はやはり「ワイルドバンチ」となるかな。その切れるようなカット割りと独特のスローモーションに一発でやられてしまった。

でも本当に好きなペキンパー作品は暴力的ではない「砂漠の流れ者」かもしれない。西部の男ケーブル・ホーグが車に轢かれて死ぬ、それはブッチとサンダンスが、自転車に乗って遊ぶというカットより衝撃的だった。そして何より娼婦を愛するペキンパーが描く、ステラ・スティーヴンスが可愛らしい。もうひとつの暴力的でない映画が「ジュニア・ボナー」。失われゆく西部への想いをロデオに投影させ、父親役のロバート・プレンストンをその象徴として描く。それはボクダノヴィッチが「ラストショー」で、ベン・ジョンソンに『西部』そのものを託した技法と通じるものがあるな。

まぁ、パキンパーを語るとなると、必然的にスティーブ・マックィーンにも触れないわけにはいかない。「ジュニア〜」でかけているレイバンのサングラスがなんと似合うことか!映画少年としては当然のように真似をしたもんだ。また「ゲッタウェイ」で一番印象に残っているカットは、アリ・マッグロウの頬をひっぱたき“stupid!”と怒鳴る場面。ほう、バカヤロウ!って言葉はこうやって使うんだ、と学校では教えてくれない英語使用法を覚えたのだった。この「ゲッタウェイ」はラストには見事にメキシコ国境を越えるが、別テイクのラストシーンがあるという噂が流れた。NYで「俺たちに明日はない」ばりに蜂の巣になるというものだ。しかし、まだ見た人に会ってはいない。

え〜っと新作の「キラー・エリート」はどうだったかというと、この監督、マイケル・マンの「ヒート」大好きでしょ、だってこの映画の見せ場って、路上の銃撃戦でマシンガンをぶっ放すロバート・デ・ニーロのカッコいい姿でしょ。話のプロットはいいが、ジェイソンの仲間の二人がまったくプロの暗殺集団の一員にみえないところが、決定的なマイナスポイント。イギリスSAS(特殊作戦部隊)を悪として描き、その組織を守ろうとする隊員にクライブ・オーウェンという意外なキャスティングは良い!

と言いながら、結局のところ『あぁ、ペキンパーの映画なんか見よう』となる。そうだ!アメリカでは「わらの犬」がフォックスからブルーレイで発売になっているんだ。日本版出してくれぃ!!