「オカンの嫁入り」賛!!

本年度のクオリティの高い作品のある種の傾向として、登場人物たちの救われない人生を見つめる作風のものが多いということが言えるかもしれない。邦画なら「告白」「悪人」、外国映画なら韓国の「息もできない」といったように、ほとんどの登場人物が同じようなデッドエンドでもがくように生きるものの救済には程遠いのだ。確かに映画としては見ごたえがあることは事実だが、後味という点でいえば良くないのが実際のところだ。

たまには救われたいよね、と思ったところで観た映画は「オカンの嫁入り」だった。監督の呉美保は「酒井家のしあわせ」で注目した女性監督で2作目であるが、ますます達者な手腕を発揮している。「悪人」もそうなのだが、一級品の映画って最初の2、3カット見ただけで、『これっ、安心して見てられる!』と直感で分かるものである。

もりいようこ、つきこ母子の住む家の居間や台所(お勝手といったほうが合っている風情)を映す最初の3カットほどで、もう安心出来たのである。その的確なカメラワークが心地よい。そして何よりちゃんと役者のお芝居を見せ切ってくれる構図が見事。

大竹しのぶ宮粼あおい絵沢萠子國村隼という芸達者な演技人を揃えた限り、まず見せなければならないのが演技。大竹さんにしたところで気合いの入り方が「ダーリンは外国人」とは雲泥の差じゃなかろうか。柄本明さんにしたって、変な外国映画「レインフォール」と「悪人」は比べものにならんといったように出会う役柄で(役者も人の子)演技の質も上がるよねぇ。

でも決してよくある演技合戦にはなってないで、ちゃんと役としての立振舞がまずあって、その日常をカメラは邪魔にならず捉える。よく役者の演技をみせたいからってワンシーン、ワンカットにこだわる監督もいるが、それも程度の問題で最近はいささかやりすぎる傾向。この映画はそこのバランスが絶品で、ちゃんとカメラの切り返しもありながら、見せるところは長回しという使い分けなのだ。

どこでロケしたのだろう?母子の家を上から捉えたカットがあり、その家の外にカメラはあるのだが、あんな狭い路地にクレーン入れられたの?そしてその住んでいる街と家(絵沢さん扮する大家さん宅も含め)がすごく作品にマッチしている。それは前作「酒井家〜」でもそうでしたね。呉監督はまず主人公が住む街に視点があるようだ。

母が突然娘とたいして年も変わらないケンちゃんと結婚すると言い出すことで巻きおこる騒動とその原因というシンプルなストーリーだが、見ていてこの家族の描写にすごくアメリカ映画を感じた。そう、大竹さんはシャーリー・マクレーン、あおいちゃんはデボラ・ウィンガー「愛と追憶の日々」!そのセンスがあるのだ。家族の愛と別れという設定の似かよりではなく、日本的なウエッティではない母子関係のユニークさにである。この感覚は従来の日本映画にはない見事さだ!

そんな演技人に引っ張られたのだろうか?勢いだけで演技しているような感じの役者の桐谷健太が、ここではビックリするぐらいイイではないか!母と結婚しようとする30歳のケンちゃんだが、見かけによらず、誠実な青年をキチンと演じている。ハチというパグ犬を散歩に連れて行って“足あげるけど、オシッコしないよ”とつきこに忠告してみせるシーンにその人間性を投影してみせている。

普通の映画だとラストに母の遺影とか見せてしまうだろうが、この“めがね!!”という(國村の探していた)台詞でスパッと切るセンスに(それが日常のささやかな幸福の一瞬)脱帽である。