「君に届け」が届いた!

仕事柄、記号としてのみであるが、「君に届け」が人気のある漫画であって、アニメ化にもなっていて、好セールスを記録しているのは、知っていた。しかし内容までは、今回の映画を見るまでは知らなかった。まあ、こんなオヤジが知らなくても別に恥ずかしくはないが・・・。

そして、その内容にビックリしたというのが正直な印象だ。なぜなら近年のこうした若者のドラマは、韓流の影響で、ほとんど病気か、事故か、記憶喪失か、という悲劇の恋愛物語ばかりだったのに対し、この物語は真っ直ぐな恋愛感情と友情のみでシンプルに語られているという珍しいものだからである。

サダコとあだ名されてしまうぐらい、髪の毛が長く、真面目だけれどちょっと暗めな爽子という女の子と、その子が憧れる爽やかさを絵に書いたような風早という男子の恋。そこに爽子と親友になる二人の(ちょっと不良な)女の子が登場するが、それだけの純粋な若者たちの学園もの。

こりゃ、まいった!うす汚れた中年オヤジの、忘れかけてしまった感情を見事にくすぐってしまったではないか!

監督は、若者ものをしっかり作り続けている熊澤尚人。なぁるほど、こりゃ確かに熊澤映画だわ!ふたりが初めて桜の木の下で出逢う場面の上からのカット(そこにタイトルが出る)なんざぁ、彼のワールド全開ではないか!そこからもうオヤジはこの映画に魅了されっぱなしだった。

ハナミズキ」でもいい味出していた蓮佛美沙子が、ここでも爽子を思いやる友達役でオヤジを引きつける。友だちっていつの間にかになっているんだよ、のフレーズがぐっとくる。学生時代にはどれだけ友達が必要であるかは原恵一の傑作アニメ(中盤すこしもたつく感はあったが後半はまいった!!)「カラフル」でも語られていたように、今の世の中であればよけいに必要なものではなかろうか。しかしこの「君に〜」では、それをかつての青春TVドラマのように暑苦しく語るのではなく、爽やか、しかしストレートに語ってしまうのだった。

原作はどこまで描いてあるのか知らないが、入学の春から映画は始まり、クライマックスは新年を迎え、次の桜の季節までと見事な構成である。その間に学校行事がキチンと盛り込まれているのが、オヤジと若者の共通体験の架け橋になってくれているので『グっ』と入ってくるのですよ!

あぁ、漫画の原作ものってばかにしてスルーしそうなキネマ旬報の読者に、見たほうがいいよ!って教えたくなる映画だなぁ。