沢尻エリカと言う名の疾走する破滅と破壊の青春

「さくらん」を見たとき、蜷川実花監督の力量は把握出来たので、次回作も期待出来ると思っていたが、一方では花魁の世界を描いていながら、いわゆる艶っぽい描写の少なさに不満もあり、もし監督2作目があるなら、大胆な性愛描写にチャレンジして欲しいと思っていた。それは「ヘルタースケルター」で見事に果たされたと言えよう。それも沢尻エリカという飛びっきりの素材を活かして、である。

そう、思い返せば「さくらん」って誰が主役だっけ?と思ってしまうほど登場人物たちの、それぞれの存在感が曖昧なままだった。しかし今回は違う!沢尻という他を圧倒する主役がいるのだ。更に(当然、監督が目指した通りなのだろうが)主人公のりりこというキャラクターが沢尻を乗っ取り、りりこの物語が沢尻エリカという女優の物語と同化して見えてくるほどの(ファンタジックでもあるのだが)リアリティを持って迫ってくる。

物語の構成はシンプルだ。人気絶頂のモデルりりこは実は全身整形美女。そして、その整形はやがては手術の後遺症で痣が浮き出てくるのが時間の問題。そのりりこの、残こされた破滅までの少ない時間を疾走する青春像を、鮮やかな色彩設計で描いているのだ。蜷川監督はこの色彩こそ命。基本は赤だ。照明、血の色、衣装、鮮やかな赤色が強調されている。しかし、検事役の大森南朋が、初めてりりこと会う場面は、水族館ということもあり画面のトーンは青となった。それが意外と新鮮に映ったから不思議だ。

整形病院の悪事を暴こうとする、この検事のすべての件は、意味不明なほどポエティックな台詞で、りりこ側のリアル感とは正反対だ。ここに最後まで違和感を感じたままだったのが何とも惜しい。監督の確信犯的描写であることは理解するのであるが、りりこのストレートな感情表現とは、あまりにもかけ離れていて受け入れにくかったのである。

いったいりりこの肉体は、いつ崩壊を始めるのだろうかと、まるでサスペンス映画のようでもある。映画の肝は、そのりりこを取り巻く人間たち。自分の夢の分身としか考えていない事務所の社長役に桃井かおり、身の回りの世話役的マネージャーに寺島しのぶ。りりこ付きのメイクアップアーティストに新井浩文。整形病院の院長に原田美枝子という固め様。中でもしのぶさんは“よく、こんな役引き受けたなぁ”と思わせる、りりこに振り回される役で素晴らしい!が、現実的に考えると超売れっ子モデルに、このレベルのマネージャーはないでしょ、という違和感はある。

そうしたキッチリした脇に囲まれて、後は沢尻エリカだけ頑張れば良かったのだが、そうした期待に彼女はしっかり答え、過激なシーンと文句ない脱ぎっぷりを見せてくれた。しかし、それを女性は拒否しないだろう。それだけ美しい!そして、ふと一人の比留駒はるこという女性に戻るシーンの可愛らしさに眼を奪われてしまう。妹のちかこが終わり間際に見せる姿と表情にこそ、この映画のテーマが内包されていると言えるだろう。

とにもかくにも、今年の邦画では必見の1本ですね。